12.12.14

決勝の前の日に。

 いろいろあった年の暮れのこと、とくに行くあてもなくぶらぶら自転車を漕いでおったら、ちょうど夜明けぐらいに千駄ヶ谷駅の前に出た。薄明のなかから、赤いユニフォーム着た人が数名ばかり姿を現したとき、その日が元日だったということに気づいた。
 こんな時間から国立競技場に駆けつけるとは、さすが浦和レッズのサポーター。年の最初の光を浴びたユニフォームは水揚げされた魚のように、いつもと違った輝きを放っている。天皇杯っていいなー。うらやましいなー。そのとき初めてそう思った。

 あれから何年も年月が過ぎて、ついに我がクラブがその舞台に立つ。とはいえ、お約束の「元日に国立競技場」ではない。アジア・カップに代表を送らなくてはならんというので(うちのクラブには何の関係もありゃしませんが)、日付は12月13日に、場所も閉鎖された国立競技場の代わりに日産スタジアムに変更されたのだ。
 たぶん、一生に一度、できればもう一度くらいあってもいいと願ってはいるのだが、そのあまりにも特別すぎる天皇杯決勝が「12月13日に日産スタジアム」みたいな日常っぽさに、なんだか気分盛り上がらないなーと思いつつも、そんなイレギュラーな年だからこそ、色んな磁場が狂って、強豪のガンバ大阪を破ってしまう可能性だってなくはないのだ、なんて密かに考えたりするわけな。

 現在の山形の強みはコンパクトな陣形。それを可能にするハードワーク。効果的にプレスをかけ、いい位置で奪ったボールを敵のバイタルにスムースに運べる「チェルシーみたいな」時間帯というのはごくごく限られているのだが、その時間にうまく点が取れたのが終盤戦の強みだった。もちろん、これは体力勝負なんで、時間の流れとともにプレスがかかりにくくなり、相手にボールを回される時間が後半は増えてくる。並みのチームであれば、ディフェンス・ラインがずるずると後退、前線のプレーヤーとのスペースがポッカリ出来てしまい、そこを相手に使われてあっけなく崩壊してしまうもの。ところが、最近の山形は多少ラインが下がっても、コンパクトな陣形を保っている。そういうことろが「気持ちの強さで勝ってきた」ってことなんだろうなと思うわけ。

 明日の相手はイケイケに絶好調なガンバなんで、まったく戦略なんて立てられない。ドン引きして守るなんて絶対無理だ。最終節で徳島が見せたようなガッツリ守備をするだけのスキルは今の山形にはない。これまで同様、効果的なプレスをかけながら、コンパクトに陣形を保って数少ない勝機を伺うしか方法はないだろう。
 なんて、控え目な展望をしつつも、もしも勝ったらユニホームに星が付いちゃうんだよなー、来シーズンはACLでブリスベンとかスウォンに遠征しちゃうぞー、ブリスベン川で芋煮会やっちゃうぞーとか浮つきまくった皮算用までしちゃっている自分もどこかにいて、なんだか落ち着かない気分なので、神々しいばかりにあるべきところに音が配置されているエリシュカ指揮札響のブラームスでも聴いて冷静沈着さを取り戻そ。このディスクに一緒に入っているドヴォルザークのチェロ協奏曲の伴奏は、笑っちゃうくらいに響きが整理しまくっててさ。