13.2.07

東京砂漠といえば、内山田洋とクール・ファイブ。



じゃが、あたくしだって、東京都内で砂漠を走りたいやん。そんなわけで、伊豆大島行ってきたのだった。今回はチャリ仲間のTさん、Kさん、Dさんのご相伴に預かることに。昨年大島に行ったときは、目の前まで行ったのに突風のあまり砂漠紀行を断念、午後はまるまる温泉にしけこんでしまったので、ちょうど砂漠への思いが募っていたところ。

今回のお供はMTBのブードゥー子ちゃん。昔は北国のオフロードをガンガンに飛ばし、レースにも出場していた男気たっぷりなフレームらしいのだけど、おいらの手に渡ってからは、スリック・タイヤを履かせられ、青山とか深川あたりをチャラチャラと流すだけの軟派な第二の人生を送っていたところだった。でも、昔取った杵柄、お蔵入りしていたブロック・タイヤに換装してやると、シャキッとしたお姿に生まれ変わる。

土曜夜に竹芝桟橋発、もちろん船内では激しく飲み食いしたため、完全に抜けきれぬアルコールと寝不足のまま、翌朝、大島岡田港に放り出される。それでもメシ、メシとメンバーを促して食堂がある元町港まで急行。何か罰が当たるくらい天気がよろしい。暖冬のため、いつもなら椿の全盛期なのだが、すでに終わっていて、所々で桜が開花してたりする。9時に飛行機で合流するDさんを大島空港まで出迎え、全員で路面ガタボコなサンセット・パーム・ラインを南下する。

再び元町港で大島一周道路を走る他のメンバーと別れ、単独で御神火スカイラインをよちよちと登る。とりあえず、この急勾配の登りが無ければ、三原山の砂漠に到達しないので、ただただライヒの《砂漠の音楽》を脳内にリフレインさせながらペダルを漕ぐ。びぎーん、まいふれんず。

休憩もそこそこ、御神火茶屋から表砂漠に入る。火山灰と砂の入り交じった道をよろよろと走る。火山灰のほうは固まっているけど、砂が深い場所は完全にタイヤを取られてしまうのだ。人生、こんなふうによろけてばかりいると、いつしか穴に落ちて、砂の女と一緒に生活しちゃう羽目に陥るのかなあなどと、安部公房的世界をアタマのどこかで息づかせつつ。

ふと、止まってあたりを見渡す。三原山周辺の砂漠のすばらしいことは、なんといっても人がいないところ。奥に踏み入ると、遠くから飛行機や鳥の声がする以外、何の物音もしない。恐ろしく静謐。目に入るのは、荒涼とした地面と山々、それを覆うように流れる雲、遠くに浮かぶ海。それでも、ここは東京都。

今回は椿まつりの真っ最中で、島内の観光スポットには人が溢れているのに、ここを通行する人はほとんど誰もいない。観光ガイドには、「月のような光景」などと書かれているけど、表砂漠のほうは、だだっ広い「賽の河原」という感じ。どちらも肉眼で見てないので、何ともいえぬが(恐山の賽の河原は実にしょぼかった。あそこはテーマパークですもん)。

裏砂漠に入ってメインの海に向かってダウンヒル。もうスピード出しまくり。ってか、ブレーキ全然効かねえ。滑るように落ちる。ときどきリア・タイヤが砂に埋もれて左右に振られるけど、止まるには転ぶしかない。いやもう、これはエグ楽しいずら。

集合時間にはまだ合間があるので、大島公園へ。椿まつり真っ最中なので、次々と観光客が押し寄せてる。砂漠の静謐から、なんとも俗な世界に降りてきた。賽の河原をうろついた、つまり臨死体験をしたような、ちと悟りめいた顔つきで、この公園のお目当てである動物園に行く。この動物園、入場無料だけあって、かなりシンプルなのだけど、そのへんが好き。二時間はたっぷり楽しめる(ラマの往復運動だけで30分くらい見てたし)。夜はロッジに宿泊。疲れ切って20時には就寝。

次の日は、皆であじさいレインボーラインを昇って、大島観光ホテルへ。そこから、また一人で砂漠へ。二日続けて砂漠に行けるなんて、なんてすばらしい日々。ただ、この日は、コース取りを間違えたのか、最後は地図にない道なき道を走る。ほとんどダカール・ラリー二輪車部門の世界。砂丘でスタックしまくり。4WDの轍を辿りつつ、なんとか大島一周道路まで戻る。

帰りの船では、中学生とその家族が島を離れるらしく、部活動らしき仲間が大挙して押し寄せ、歌うやら、エールを送るやら、ここまでやられては功なり名なり挙げねば島へ戻って来れませんってくらいに盛大に送り出されている。船が出ると、その見送りの中学生たちが船影を追って一斉に埠頭に向かって走り出す。徹夜明けで大映ドラマを見たときのような感動が胸を突く。船室でうたたねしたあと、すっかり暗くなったデッキに上がり、激しい痴話喧嘩をする男女のやり取りを傍らで聞きながら、羽田に発着する飛行機を眺める。なんともいえぬ旅情。