気づいたら、J開幕の日であった。
まあ、あたくしの贔屓であらせられるモンテディオ山形は、下馬評ではダントツ最下位、降格最有力候補というより降格確実ということなのであるが、ここまで決めつけられちゃうと、逆にすがすがしいというか、ノープレッシャーで、勝ってすみません路線を突っ走ってもらたいものである。J2時代は、こことあそこには勝たなきゃ、などというプレッシャーとか、勝って当たり前だろ的な空気が少なからずあったわけだが、J1の今年はどこから勝っても、大福饅頭、凱旋パレードもんなんだから、こりゃあずっぽり楽しまないといけません。
今年のユニフォーム胸スポンサーは「つや姫」。以前の「はえぬき」を継承してデビューするという山形県産ブランド米の名前である。たまにはお米っぽい名前を付けろよな、と注文を付けたくなるのだが、このシュールなネーミングがJA山形の流儀でして。最初はショックだけど、慣れるに従って、「悪くないかも」と思わせるのが味なのである。
たとえば、この「つや姫」って、「艶姫」とか「通夜姫」みたいな漢字を連想させるのが、すごいと思うのだ。つまり、エロスとタナトス、ってわけ。実に味わい深い。モンテディオ山形も、エロスとタナトスあふれるゲームを見せて欲しいものである。
タナトス関連でいえば、この「つや姫」という名称が決定した2月23日(日本時間)、ロサンゼルスである日本映画がアカデミー賞外国映画賞を受賞した。いわずとしれた「おくりびと」。この映画のロケ地は山形県の庄内地方だったということで、「山形=死の文化」という構図がじわじわと浸透しつつある。
そんなことを書くと、「死」なんて縁起悪いじゃん、と抜かす奴がいらっしゃるはずだ。そういう考えって、誰もが必ず体験するものを縁起悪いなんてカテゴリーに入れることで隠蔽しちゃえという、一種の小賢しい認識。でも、そんな認識だけで生きていくのは、あまりにも貧しい。これを機会に、全県を挙げ、全国に向けて「死の文化」の普及、啓蒙に務める、なんてことになればいいのになと願う次第である。
そういえば、モンテディオ山形のフルモデルチェンジ構想というのがあって、クラブの有り方を変える試みが現在も討議されている。これが最初に出てきたときは、クラブ名称は「月山山形」、ユニフォームは「白と黒と銀」のカラーを用いる、なんて報道があって驚かされた。こんな名前や色が嫌だ、というよりも、こんな劇的な転換をしないとクラブの存続が危ういという切迫感にショックを受けたのだ。
現在は、名称や色の変更については保留のまま構想全体の内容を練っていく、という段階だそうだが、「月山山形」と「白と黒と銀」、決して悪くない。慣れるに従って、「悪くないかも」から「これってかなりいいかも」と思うようになってきている。そうしたさなか、「つや姫」「おくりびと」というニュースが入ってきたことで、この名前と色、まさにピッタリではないかと思ったのである。
なにしろ、「月山」は、死者が集まる聖地として信仰を集めていた山だ。日本における山とは、なべてそういうものなのであるが、とくにこの山はそうした役割を強く求められていたのだ。そして、白と黒を中心としたカラーは、まさに葬式っぽくてクールだ。
そう、モンテディオ山形は、徹底したタナトス路線で行けばいいのである。新キャラクターは湯殿山の即神仏、ミイラくんに決定だ。「ようこそ、死の国へ」「ここがお前らの棺桶だ」といった弾幕、そして周囲を白黒幕に覆われたスタジアムは、相手チームを圧倒するに違いない。日本では禁止されている発煙筒の代わりに線香をぼんぼんと焚き、敵チームの成仏を祈祷するのだ。それに、モンテディオ・サポーターの応援は、かつて「念仏」と言われていたそうだから、これは変える必要がない。Jリーグの審判はスキンヘッドが何人かいるから、彼らに袈裟着せて……というのは無理そうだな。
世界的に注目を浴びるクラブになることは間違いない。たとえば、ドイツ・ハンブルクのザンクト・パウリみたいに。ドイツ有数の歓楽街をホームタウンとし、ドクロをトレード・マークとするこのクラブは、世界中の同性愛者、ロッカー、アナーキストなど、はみ出し者たちから熱い視線を注がれている(わたくしもブンデス・リーガで二番目に好きなクラブ)。そうしたイメージをクラブが全面的に押し出しているからだ。クラブが二部や三部にいても、彼らの愛は変わらない。モンテディオ山形もそうしたスタイルを見習ったほうがいい。県民の大半は、流行れば付いてくるのだし。
タナトス的にはこれでいいが、エロスはどこに行った? 個人的には、それは試合内容で表現するのが理想ではないかと思うのだ。FC東京のセクシー・フットボールじゃないけど。
そんなわけで、これからそそくさとヤマハ・スタジアム行ってきます。