トッパン・ホールでロジェ・ムラロを聴いてくる。ムラロといえば、メシアンが有名だけど、あたくしはラヴェル演奏のとことんマニエリなところが気に入っておって、このピアニストは是非ナマで聴いてみたいもんじゃのうと思っていたところなのだった。
CDを聴いた感じ、「小男の小業師」といった印象だったのだけど、舞台に出てきたムラロはけっこうデカい。しかもガンガン弾きまくる。このときのわたしの気持ちを喩えるならば、ラシン・サンタンデールと対戦するチームのディフェンダーが、試合前ミーティングでムニティス(1m67cm)をマークしろと監督から指示されていたのに、キックオフ直後にジキッチ(2m02cm)のマン・マークに変更になった、という感じである(リーガ・エスパニョーラを知らないと、すんごくわかりにくい喩えだな)。
前半のリスト、アルベニスは、ムラロの強い当たりに、ちょっと翻弄された。ハーフタイムのあとの後半はショパン。結果からいうと、これがとても面白かったのである。
録音で聴いてもわかるのだけど、彼は音の重なる部分で、工夫を凝らして立体的な音響をこさえる。バリバリにやかましいだけではなく、小技がピリリと効いておるのである。しかも、滑舌がはっきりしてるパキパキ系。
音色は多彩だし、表現の幅も広い。しかし、それらをキチンと統一するものがないのだ。心地よい流れには絶対にならない。つまり、完全にマニエリスティックな演奏なのだ。そして、その過剰なマニエリさに、わたしは充分満足したのだった。闇鍋パーティーでのワクワク感とでも言おうか。ただ、心底真面目な聴き手にとっては耐え難いものがあったかもねえ。友人の一人がソナタのあとに退席してしまう姿も目撃したし。